『万引き家族』ネタばれ感想

by - 8/15/2018

※ネタばれがありますのでご注意ください※

『万引き家族』2018年公開/是枝裕和監督
71回カンヌ国際映画祭において、最高賞であるパルム・ドールを獲得。
あらすじはこちらでチェックを。

最近みた映画でここまで心を揺さぶられた映画はなかったです。
推測・主観を入れ混ぜた感想を語ります。


他人同士で一緒に暮らす人々

この映画は血がつながっていないけど家族のように暮らしいる人たちのお話です。
(そもそもこの設定も中盤ぐらいでようやくわかるようになっていて、登場人物の不思議な関係を解き明かすミステリーを観てるかんじで最初から最後まで頭が回転しっぱなしだった。)
まずは登場人物の関係を簡単に記しておきます。

初枝:樹木希林。年金暮らしのおばあちゃん。登場人物の住んでる家は初枝の家。
:リリー・フランキー。この家族のお父さん的存在。日雇い労働者。本名は祥太。
信代:安藤さくら。この家族のお母さん的存在。クリーニング店でパートしていたがクビになる。治は昔、夜の仕事をしていた時のお客さんで治とは夫婦のように暮らしている。
亜紀:松岡茉優。初枝の元旦那の孫。家出をして風俗チックなお店で働く。
祥太:8-11歳くらいの男の子。学校には行っていない。赤ん坊の時、パチンコの駐車場の車の中にいたところ、車上荒らしをしていた治と信代に見つけられ、一緒に暮らすようになる。
りん(じゅり):親から虐待を受けていた少女。一人でいたところを治と信代が連れて帰り、一緒に暮らすようになる。りんは信代たちから付けられた名前。

こんな感じでこの登場人物は誰一人として血が繋がっておらず、そんな人達が都会の影に潜んで暮らしています。
基本は初枝の年金を頼りに暮らしていて、足りない生活費は万引きや車上荒らしで稼いで犯罪を重ねながら暮らす治達。
映画を見てる時には、この人達の関係がいつ崩れてしまうのか、その脆さと危うさに、ひやひやして終始緊張感が離れませんでした。
何かが起こりそうで起きない怖さ。
そんな中でも時には温かくほっこりする本当の家族なようなシーンも描かれてて、血は繋がってなくてもこういう家族の在り方も有りなのかもしれない、と考えるような場面が何度もありました。

過去に叶わなかった願いを叶えようとする大人たち

この家の中の大人(初枝、治と信代)には共通していた部分があると思っていて、それは全員が『他人を使って自分の叶えられなった過去の願いを叶えようとしていた』という点。
それぞれの登場人物の過去が丁寧に語られることはないので、断片的な情報から推測をしながら考えてみました。

<初枝のケース>
例えば、おばあちゃんの初枝は別れた結婚(もしくは婚約)相手の孫の亜紀と一緒に暮らしてます。そして亜紀からはすごく慕われながら暮らしてます。
亜紀は初枝が別れた夫の息子夫婦の長女で、妹ばかりが可愛がられる自分の家が嫌いで家出をして初枝と一緒に過ごしている女の子です。
そして所々のセリフで、どうやら初枝の元結婚相手は一方的な理由で、初枝を捨てたらしいことが分かります。
初枝と亜紀が暮らすようになった経緯は語られてないですが、泣く泣く別れた男性の孫に慕われながら暮らすっていうのは、夫を奪って早く死んでった奥さんに対する最高の復讐じゃないかと思うんです。
そして、別れた夫の孫と暮らすことで、密かに初枝が本来手に入れたかったその男性の妻のようなポジションになりたかったんじゃないかと思うのです。
初枝は亜紀という他人を使って自分の叶えられなった願いを叶えてようとしていたように感じられました。

あと、これはかなり妄想だけども、亜紀って風俗チックなお店で働いてるけどそれに対して初枝は何ら抵抗を感じてない様子だから、もともと初枝も夜のお仕事とかしてて、そこで出会って夫と結婚したけど、結局はキレイで良家出身みたいな女性に夫を取られたのかなという過去だったりするのかななんて。

<信代のケース>
他人の家の子供であるゆりをなぜ家族の元へ戻してあげれなかったというと、
一度は連れ戻しにいったものの、ゆりの本当の母親が「あんな子産むんじゃなかった」という言ったのを聞いてしまったから。
その言葉を聞いた信代はゆりを元の家族に返すのを躊躇して一緒に暮らし始めます。
印象に残るのは信代とゆりがお風呂に一緒に入るシーン。
信代の腕にも火傷の跡があるのをゆりが気づいて、火傷の跡を優しくなでてあげます。
信代は涙を流しながら「優しいね」とゆりに言います。
このシーンからも、おそらく信代も過去に虐待を受けていたことが想像されます。
信代が過去に虐待を受けていたっていうのをほぼ確信したのは、後半の刑事さんとの事情聴取のシーンです。

刑事「どうして誘拐したんですか?」
信代「母親が憎かったからじゃないですか?」

上記のようなやり取りがあって「あぁ信代自身が虐待受けてきて自分の親が憎かったんだな」と思えたわけです。

刑事「自分が母親になれなかったから、うらやましくなって誘拐したの?」
信代「産んだからって、それで母親になれるんですか?」
刑事「産まないと母親にはなれないでしょう?」

このセリフって信代が自分の母親のことを、母親とも思いたくないくらい憎んでいたんじゃないかって思えるんですよね。単なる屁理屈の受けごたえなんかじゃなくて。
りんの母親と信代の母親を重ね合わせて言ったようにも思えるようなシーンでした。

親から虐待を受けた信代が、どうしてもゆりを放っておけなかった気持ちも分かる気がするんです。
そんな信代も、虐待受けてる時に本当は誰かに助けて欲しいって思ってたんじゃないかって思うから。そんなのりんを放っておけないよね。
自分と同じ様に虐待を受けてるりんを救うことで、助けて欲しかった昔の自分も同時に救っていたように感じられました。

安藤さくらさんの演技が素晴らしいってことで話題になったこの後半の刑事さんと話すシーンですが、切なくて涙が止まらなかったです。
一人で映画館で泣くなんて恥ずかしい///なんて葛藤してる暇もなく泣きました。

<治のケース>
最後に治です。
治もずっと犯罪を繰り返して生きてきたわけで、連れ去った男の子には自分の本名である「祥太」と名付けます。
子供に万引き以外教えられるものがないと言い切ってしまうくらいの、環境のなかで生きてきた治。
おそらく治も機能不全な家族のなかで育ったのかなと思えます。
連れてきた子供に自分の名前をつけて、自分が欲しかった愛情を注いでいたとしたら、胸が締めつけられます。
派遣先の工事現場では、まだ工事中のマンションの空間で、大きな声「祥太」と呼ぶ治の姿がなんともかなしかったです。
素敵なマンションの一室でお父さんに愛されながら暮らすことを密かに夢に描いていたとする治の気持ちを想像すると、せつないです。

最後に

この映画を観た後は心がえぐられたような感覚になりました。
しばらくボーっとするほど心がもってかれてしまって、帰りの電車で降りる駅を2回も間違えてしまったくらいです。

大人たちが過去を克服しようともがく姿は、なんとも言えないかなしさがあって、胸が締め付けられた映画でした。
他にも過去を克服しよと全力で戦った男の話で思いつくのが『グレート・ギャツビー』。
どちらも哀れで切なくて、けど支持してあげるような哀愁があって、見た後に尾を引く映画ですよね。

リアルタイムでこんなに心にずしん、と響く映画に巡りあえて本当に感謝です。
是枝監督、関係者の皆様、素敵な作品を世に送り出していただきありがとうございました。





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